えぐちず 2

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 ●2005年5月9日の旅●

 5月9日月曜日。世間ではゴールデンウィークが終わり、普通の1週間が始まるという憂鬱な月曜日。わしは休みです。
 おそらく、連休中には札所も大混雑だったでしょう。
 しかし、わしが行くのは今日。きっと一番空いている時期なのではないでしょうか。

 「前日は酒も飲まず、仕事も溜めず、午前2時には布団に入っておくこと」と気合いを入れました。なぜなら、当日は朝9時には出発する予定だから。朝9時。世間の人には普通の時間と思われるかも知れませんが、普段から4時就寝−12時起床とかを平気でやっている人間にとっては未知の早朝です。9時出発と言うことは、身支度のためにそれより1時間は早く起きなくては。8時ですか? きっとまだ太陽だって昇ってないハズですよ? しかも江口は、おべんとうを作るつもりなんですよ。まあ、下ごしらえは前日にしていたからいいんですが、それでも7時半には起きなくては。7時半? それって普段の就寝時間ですよ? ともかく、この時間の起床が江口にとっては何よりの修行です。寺を巡る前に功徳が積めそうだ。

 7時半。起きる。綺麗に目覚める。なぜなら、わくわくしているから。遠足に行く子のようにわくわくしているから。
 おべんとうの支度を始める。っても夕べにほとんど作っていたので、あとはおにぎりを握るだけ。
 ちなみに本日のメニュー。
 おにぎり2種。海苔と鮭。
 ハンバーグとニンジンのグラッセ。かぼちゃのグラタン風。ゆでたまご。
 ゆでたまご以外は前日の夕食でした。もとい、今日のおべんとうのおかずを夕べにいただきました。残り物を詰め直したと思われるのもイヤなので、せめてもの抵抗にゆでたまごを花形に切りました。花たまごは江口家での行楽弁当の定番です。

きょうのおべんと
今日のおべんとう。
「緑色がない」と怒られる。 

 おべんとうを持ち、お茶を入れ、地図と週刊四国遍路の旅を用意し、フィルムカメラとデジカメを準備して予定通り家を出ます。旅の仲間を呼んで助手席に乗せ本格的に出発。旅の仲間は寝不足の上、寝酒が残っていました。

 なんだかんだで家を出たのは9時半ごろ。そして我々は高速道路に乗るという手段を考えてはいません。ひたすら国道11号線を東に向かって走ります。香川県は日本一狭い県ですが、それでも時速60キロ前後で走ると時間がかかります。予定していたおべんとうポイントは津田の松原だったのですが、ここの到着が12時ごろでした。遠い。

津田の松原  せっかくなので津田の松原のご紹介。
 その名の通り、津田町(現さぬき市)の松原。小学校の時には遠足にも来た。海岸+松原というのは江口の地元でも存在するので別段珍しくもないが、観音寺市の有明海岸と比べると、こちらは観光地の風格があります。観音寺のイメージは鬱蒼とした松林だが、こちらは妙に明るい。密度のせいか。
 5分間使ってみる  松原のところどころに立ってある立て札。左の写真は実際に5分間使おうとしている旅の仲間。
 で、純粋な疑問なんですが。5分使えと言うのは掃除して帰れという意味で合ってるんでしょうか。その掃除も、そのへんにかき集めておくだけでいいんでしょうか。
 あと、この公園と隣接して小学校があります。ですが小学校の敷地と松原の境がありません。気が付けば校庭らしきところを歩いていました。すんません、怪しい者じゃありません。

 腹ごしらえをして再出発。ここから更に車を走らせること約1時間。詳しい時間はもう覚えちゃいないが、ともかく午後2時前ぐらいにようやく目的の、第1番札所に到着したのでございます。

 

●第一番札所 竺和山 霊山寺(じくわざん りょうぜんじ)●

霊山寺の池
一番さんのコイはふてぶてしさも一番さん。

 県道12号線をひたすら走ります。よくある道路案内板に表示されている距離ってのはアテになりませんが、ここも例外なく。国道11号線を走っていると途中で陸橋になる、その手前で道を降りて12号線に乗り換える、その手前に案内板はあります。あと○q、あと○qと思いながら走っても一向に辿り着きません。何時間も走り続けてようやく『霊山寺』の文字を発見して、ああもうすぐだと思った、その後がかなり長いです。いや、たぶん車で走っている時間は10分ぐらいだったのかもしれない。けれど感覚ってのは輪をかけてあてにならず、本当にこの道でよかったのかと焦り出します。すると前方にでかでかと『霊山寺 P』と案内があります。そう、ここは一番さん。おそらく八十八カ所ある札所の中でも、もっとも来訪者の多い場所なのでしょう。なんて分かりやすい。駐車場への入り道も広く、すんなりと到着いたしました。
 いよいよです。江口の背筋も伸びます。車を降りる前に、もう一度作法をおさらいして、いざ出発です。
 駐車場と隣接して納経所があります。さすが1番札所。フル装備の兄ちゃんがごろごろいます。そして江口達のような、普段着の観光客もたくさんいます。ベビーカーひっぱってきたご近所さんらしいファミリーもいました。客層がごった煮です。客って言うな。
 おそるおそる奥へと進む。

 狭っ。

 予想以上に狭い。
 江口が持っていた予想とは。それは『週刊遍路(誌名が長いので以下省略するよ)』。ああ、さすがアレはプロが編集した雑誌だよ。すんごい広々とした寺をイメージしていた。実際は狭い。
 ちょっとショックを受けながら、でもこれが最初なのだからと気合いを入れ直す。
 駐車場から進むと、すぐ大師堂の前にでます。とりあえずお参り。隣に池。観光客がエサをやるのだろうか、慎ましさの欠片もない黒いコイが水面で暴れまくっています。その向こうに手水場。エアータオル付き。一番さんみたいな人がいっぱいくるところにエアータオルを1台だけ置いたところでどうなるんだろう。絶対自分のハンカチで手を拭いた方が早いです。
 そして奥には本堂が。ずらりと遍路アイテムが売りに出され、右奥の方では説明会場が設置されています。ああさすが一番さん。いろんなところが至れり尽くせり。だけど江口みたいな小心者がそんな説明会に顔を出す度胸もなく。そそくさとその場を去り、駐車場横の納経所に戻る。土産物屋のような納経所の奥に、袈裟を着たおじゅっさん(住職さん※方言)が座っています。このおじゅっさんに納経帳を渡せば、すらすらりと書いてくれます。さらに困った顔をしながら「この納経帳は乾きが悪い」とドライヤーをかけてくれます。十分に乾いたら返してくれて、一緒に御影(みえい/本尊の描かれたちっちゃい紙。うっかりしていると折り曲げてしまいそうで、専用の入れ物を持ってくるべきだったかと後悔)もいただける。やはりこういう場所のおじゅっさんは、大量の初心者を相手にしているのだろう、あたふたしている江口に対しても終始おっとり。まあ、他に誰もいなくて余裕があったのもあるだろうが、荷物を持ちつつ御朱印のお礼金(¥300)を渡す動作に困っている江口を静かに待ってくれます。そんなおじゅっさんですが、駐車場から謎のアラーム音が鳴り響いているのには狼狽していた。ちなみに音の原因は、停めてある車がライト着けっぱなしで、それの警告音だった。
 で、あとはまた中の遍路グッズを一通り見て回って終わり。滞在時間、10分程度。
 こんなのでいいんでしょうか。
 真面目に同行二人をしている方々に申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、次の札所を目指します。

 

●第二番札所 日照山 極楽寺(にっしょうざん ごくらくじ)●

近代的な極楽寺
『極楽』を思わせる真っ赤な門。

 2番札所はすぐそこです。さっき歩いて1番を出発していた兄ちゃんと、車の江口達、同時に着いた。それは言い過ぎ。
 ともあれ、ここは1番に比べると広い印象です。というか建物が新しいです。納経所なんかどっかの受付カウンターみたいでした。観光地然としています。奥の方にレストランとかあってもおかしくない感じだ。
 中も広い。ちょっとだけ歩く。ちょっとだけ。お参りして、御朱印をいただいて、ドライヤーでせっせこ乾かして終わり。
 ここでは特にイベントもなく、スムーズに次の札所へ行きましたが。
 家に帰って週刊遍路をみたら、ここには抱き地蔵『重かるさん 軽かるさん』ってのがあったらしい。なぜ気付かなかった。やはりまだビギナーゆえの視野の狭さがあるのか。

 

●第三番札所 亀光山 金泉寺(きこうざん こんせんじ)●

気持ちですから。
賽銭箱へみかん。
これ以外にもワンカップ酒が入れられていたのも目撃した。

 つづいて3番へ。ここも近いです。地図ではすぐそこ。
 ‥‥しかし、道路標識の通りに進むとどんどん山の中へ入っていきます。交通量もぐっと減ってきました。本当にこの道であってますか? と不安になっていると、良いタイミングで金泉寺への案内板が見えます。それを信じて車を左折させると。
 住宅地の真ん中を走ります。
 もう一度聞きます、本当にこの道で合ってますか‥‥?
 心配ありませんでした。まもなく寺独特な屋根が見え、観光バスが停まっているのを見つけます。ああ、間違いなかった。ですが、それまでの街中寺と比べて一気に人里離れた感が。いや、ものすごく住宅地のど真ん中なんですが。
 このへんから、噂の『御接待』の姿が見えてきます。会議室テーブルを持ってきて、上に草餅やらおはぎやらを並べて売っています、その横に水タンクと紙コップがあって、『御接待です、ご自由にどうぞ』ってある。たぶん1番でも2番でもあったんだと思うが、その辺では見る余裕が無くて気付いていなかったんだろう。そう、街中の札所は誰でも散歩コースにしてそうだが、ここらへんはもう参詣する気じゃないと立ち寄らない場所、本気の人間しか見当たらなくなる。というわけで気付いた御接待の姿。でも江口は遍路じゃなくて観光客なんだから、手を出すまいと心に決める。江口もお遍路さんになったら、その時はいただく。

 さて、ここの納経所ですが。
 いやー。1番2番と正装の寺人に迎えられたので油断していたら。ここはおばちゃん二人。しかも二人でずっと喋くってた。納経帳受け取ってから返すまでずっと喋ってた。ここが寺じゃなくて近所のスーパーだったら江口はきっと××してるぞ。一応、場所が場所だけに江口も慎んでおります。
 あまりのアレに300円渡し忘れそうになった。
 しかし、渡し忘れそうになってもおばちゃんは何も言わない。そうか。御朱印は売り物じゃないから、金の請求はしないんだ。あの300円は書いて頂いたことに対するお礼。まあタテマエの話であるが。ともあれ、堂々と請求できない類のものであるよ。
 ちなみに、1番では堂々と請求された。あそこは素人相手だからタテマエ通してる場合じゃないんだろうな。

 

●第四番札所 黒巌山 大日寺(こくがんざん だいにちじ)●

大日寺の風景
ここは江口のお気に入り。

 では、3番から4番へ向かいましょう。
 ‥‥どの道を通れば良いんでしょう?
 手元の地図を見ます。少し先へ行けば、元の大きな道へ戻れそうです。そして実際に道を見ても、すぐ前の道を通れば車で抜けられそうです。でも手前に堂々と『歩き遍路← 車遍路→』と看板が立っています。この看板に従えば、さっき通った山道に戻れということです。「大丈夫だよ、まっすぐ(歩き道)行こう」という旅の仲間。しかし運転手である江口は看板に従います。彼は舌打ちしながら「チキン野郎」と罵りました。何とでも言え。
 看板に従い、車道を選ぶと、すぐに次の標識が見えます。大丈夫、この道で合ってた。やはり遍路道は四国の数少ない観光資源、部外者のためにとても親切です。
 車はどんどん山を登ります。
 どんどんどんどん山に向かい、ついに道が無くなります。
 その道の手前が大日寺。この先は道路の舗装もされていません。
 もう、この道を通る人間は大日寺目的以外ではありえません。なので駐車スペースもひろびろ、というか道の全てが駐車スペースのようだ。その広さに似合わず、こじんまりした寺。山門の左右には手入れされた花があり、それが近所のおばちゃんに手入れされたかのような所帯じみた花壇。親戚んちの庭に入り込んだみたいです。
 中は天気の良さと、静けさと、人気のなさで清涼感に充ち満ちています。誰も来ないので車の音もありません。思わず長居したくなります。江口はここがとてもお気に入りです。また来たいなと思いますが、こんな道のどん詰まり、二巡でもしないかぎり来ることはないでしょう。来たりして。

 

●第五番札所 無尽山 地蔵寺(むじんざん じそうじ)●

地蔵寺の小坊主
小坊との運命の出会い。

 運命の出会いって言うか、この前からずっと出会い続けていたんですが、いよいよ気になりだしたのがココ。なので初めて写真に収めました。
 大日寺との別れを惜しみつつ、次に行きます。もちろん、今来た道を戻ります。この辺から、「もう地図なんかいらねーよ」と思います。それくらい、道道の案内は親切です。むしろ、地図を見てルートを選ぶ方が手間がかかります。ここは先人の残してくれたものに素直に従うべきでしょう。
 さて、難なく到着した地蔵寺です。中には樹齢800年とか言うでかい銀杏の木があります。季節が季節なので、緑のはっぱがわさわさして壮観です。
 それよりも壮観なのが、50人ぐらいのツアー客です。
 このあたりから、この一行(観光バス2台)とずっと一緒の旅になります。
 一行は本気なので、9割が白衣・菅笠。もちろんフル装備のおじゅっさんの指導の元、本堂・大師堂でそれぞれ読経をします。
 待たされます。
 いや、べつに間を縫って賽銭を入れ、ツアーと離れたところで拝んでもいいんだけど、あの迫力の中に混ざっていく度胸はありません。こっちは急ぐ旅でもないので待ちます。待ちながらツアー客の観察をします。みんなどんな立派な格好をしていても、靴はスニーカーです。おじゅっさんもスニーカーでした。と、旅の仲間がぽつりと「あんな格好してても、やっぱり足はスニーカーだ」と言いました。全く同じことを考えていたこの二人。旅はまだまだ続きます。

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