●第六番札所 温泉山 安楽寺(おんせんざん あんらくじ)●
遮断機が車両進入を拒みます。入ってるけど。
さてさて、地図を手放して。道路を信じて進みましょう。道の通りに走ると見えてきます、見慣れた赤い建造物が。どんどん建物の造りの中に中華色が濃くなってきます。いや、たぶんこれまでのものと大差は無いんだろうけど、ここで急に思い知らされます。建物の新しさがあるからでしょうか。よく分かりませんが、とにかくこぎれいな寺です。中には池があり、おとなしめのコイが泳ぎ、そこを渡る朱色の橋があり、来訪者を誘います。 ここでもツアー客と遭遇します。団体客は御朱印をいただくのも大変です。外でみんなが読経をしている間、添乗員らしき人が束を抱えて持ち込んでいます。二人がかりで書き、その間に添乗員がドライヤーで一生懸命乾かします。ああ、ドライヤーって週刊遍路のオマケのために用意したんじゃなくて、昔から置いているんだね、と一安心。乾きにくいのはコレだけじゃなかったんだ。ともあれ、その一生懸命の間におじゃまして、わしの御朱印をいただきます。一応、個人の方を優先してくれるが、繁忙期にはどうなんだろう。近寄らないようにしよう。 おやおや、ここには小坊がおりません。せっかく前の寺で恋心を抱き始め、この場での逢瀬を楽しみにしていた小坊がいらっしゃいません。ああ、寺を綺麗にしたときに、コピーノイズ入りまくった小坊も綺麗にされるべくどこかへ行ってしまったのか。心に秋風を感じながら、駐車場の方へ戻ってみると。
小坊、受難。
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小坊ーー。なんてところにーー。 というわけで撮影。 タクシーが真横に停まっていたけど、気のせい。 |
●第七番札所 光明山 十楽寺(こうみょうざん じゅうらくじ)●
山門をくぐると地蔵たちがお出迎え。
十楽寺へ向かいます。 ここで初めて江口達は道を間違えました。一応、標識が立っているのだが、道がY字に別れていて、標識の矢印がどっちの道を指しているのかわかりにくかった。川を越すような事態になれば、それは道を間違えています。引き返して、本来の目的地へ。 十楽寺。こじんまりとした山寺です。山門をくぐると、上の写真のようにかわいらしい地蔵たちがずらりと並んでいます。とりあえず写真撮ったら旅の仲間に「あまり水子地蔵を面白がるな」と怒られました。ごめんなさい。ついでに。さっきここに載せるために画像を編集していたら。画面いっぱいの地蔵はかなり鳥肌がたちます。もう1回謝っておきます。 ここは眼病に霊験があるとか。ツアーのおじゅっさんが『おめめのおまもり』を参加者に勧めていました。なので納経所には人が殺到。これまでで一番狭いと思われる納経所がきゅうきゅうです。人波が引くまで待つ。待つ間に納経所の周りを観察。ここにもドライヤーがある。年季の入ったドライヤーだ。そして後悔。なんでこれまでの札所で、ドライヤーをチェックしていなかったんだろうか。小坊よりもドライヤーの方が被写体として面白かったのではないか。すでに7番。引き返す気力はない。 山門の2階にあがることもできます。愛染明王が祀られてします。で、関係ないんですが、江口、『祀る』の使い方合ってますか? このあたりから、自転車で回るお兄ちゃんとしばらく一緒になる。他の参拝客と話していたのを聞いたが、「今日は行けるところまで行って、あとは野宿」らしい。季節はすっかり初夏です。
おまけ。 妙に味のある手水場。 『真実の口』に見えなくもない。 |
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●第八番札所 普明山 熊谷寺(ふみょうざん くまだにじ)●
遊歩道のような境内。
さきほど間違えた道に戻ってきました。目的地は8番札所、くまだにじ。江口、今の今まで「くまがいじ」って読んでました。もっと素直になろう。 ここもまた、こ綺麗な札所です。観光バス何台でもOKと言わんばかりのだだっぴろい駐車場に、サービスエリアのような納経所。ゆるやかな階段がつづき、さわやかな若葉のトンネルをくぐるように本堂へ向かいます。写真では小さくてわかりにくいかも知れませんが、階段の左側は舗装道路になっていて、たぶん車でも上れます(たぶんね)。真正面に見えるのは中門で、持国天と多聞天の、おそらく陶製の像が両脇にあります。道路側には石像もあります。なぜ2人だけなのかは知りません。この像も、きっと最近作られたのでしょう、綺麗です。そう、ここは妙にいろんなところが新しく、たぶん歩き遍路の人間ならがっかりし、観光客ならその人工的さ加減に安心する場所ではないでしょうか。 などと呑気なことを言ってられるのはここまでだということを、まだ江口は気付いていませんでした。
●第九番札所 正覚山 法輪寺(しょうかくざん ほうりんじ)●
山門の両脇にはでかい草履。草鞋かもしれんが。
さあ、今日中に10番まで行っちゃうぞー、あと2つだー。さっきツアーバスより先に出たから、今度はこっちが先にお参りするぞー。と意気込んで車を走らせます。次は法輪寺。ガイドでは車で10分ぐらい、ちょっと遠いな。まあいいや。‥‥そんなふうに呑気に進んでおりました。 が。 どこですか? 法輪寺はどこですか? どの道を通れば法輪寺に着くんですか? 7番の時とは比べものにならないくらい道に迷います。いえ、迷ってはいません、この道で合っているはずです。標識に従って進みました。道路は舗装はされているものの、中央線のない、田舎の田んぼ道です。広々とした田んぼが続き、地平線の向こうには幹線道が見えて、絶えず車が行き来しています。そこから断絶された現在地。あんまり言うとこの辺に住んでいる人間に怒られそうだが。ともかく、江口は迷っていました。しかし、その地平線の彼方に寺の屋根と、追い越したはずのバスが見えます。見えているのにたどり着けない。まるで砂漠の蜃気楼のようです。 と、助け船。道の端に標識があります。国土交通省が設置した標識ではなく、自治会か保存会かともかく地元の人間が作ったような手書き看板が。その看板は田んぼの真ん中を指しています。ここまで迷っている江口、唯一見つけたこの看板に従わないわけがないでしょう。車が通っていいものかどうか悩みながら、そこへ頭を突っ込む。と、すぐに『四国のみち』石柱がありました。「ここで大丈夫ダヨ」と言ってくれたようで一安心。二つの標識に助けられ、ようやく江口は法輪寺にたどり着きました。 後から、週刊遍路の地図でこの場所を確認します。ガイドではルートを分かりやすく太い赤線で引いてくれていましたが、その周辺をよく見てみよう。ここは田んぼの真ん中です。周囲に道路がありません。赤い色に騙されるな。 で。この寺のコトですが。表に草履が並んでいたのと、座り込んで緻密なスケッチしていたおっさんがいたこと以外は覚えていない。あと、今度こそツアーバスを抜いた。
●第十番札所 得度山 切幡寺(とくどざん きりはたじ)●
油断。
残るはあと一つ。今度こそ迷わずに行き、無事に香川まで帰ろう。そう意気込んで次を目指します。 迷いようがありません。 10番とは、それほどわかりにくい場所にあるのでしょうか? まず9番の駐車場出口から、道路にペンキで方向を書かれています。『止まれ』とか『一時停止』とか書くのと同じように、『十番札所』。しばらく行くとまた道路に『十番札所』。土手の途中に『十番札所』。電柱に沿わせて『十番札所』。個人宅の塀に『十番札所』。ここは日本で一番『十番札所』という文字を使った町です。なぜこんなに大量に標識があるのか? それはもちろん、こうでも書かないとわかりにくいから。たぶん江口は、歩き遍路の道を車で通っていたのではないかと思うのですが、やけに狭い道を通りました。バスなら通れません。バスはきっと、分かりやすい、大きな広い道を通っているのだろうな。 そうして多種多様な看板に導かれつつ、切幡寺です。いよいよ到着し、「ここを右折」の看板を見つけます。
え?
ちょっと待って下さい。
この道ですか? というか、ここは道ですか?
両脇に民宿の看板が見える、急な坂道です。昔、車で似たような道を営業に回ったことがありますが、その時は下に車を停めて歩きましたわそう言えば。 もしこの道が間違っていたら、どこでUターンすればよいのでしょう? 坂の途中に、民宿の駐車場が見えます。いざとなったらあそこへ入ってUターンだ、と覚悟を決めて。あとは江口の運転テクニックを信用して進みます。 ああ、また『十番札所』が見えました。正解のようです。その正解を確固たるものにする存在が見えます。対向車です。対向車です。ちょっと待て、対向車だ。「やっぱりここは車が通っていい道だったんだ」。ンなコトを言ってる場合じゃないよ、対向車だよ。しかもでかいファミリーカーだよ。 そう、ファミリーカーを動かす人間はきっと運転テクニックもあるはずだ。ここは相手を信じて、例の民宿駐車場で待つ。2台来られたけど、どちらも相手を信じてじっと待つ。そして車が来ないうちに、一気に進む。と、山門が見えてきました。
え?
ちょっと待って下さい。
駐車場はどこですか? あの山門の向こうに駐車場が見える、あそこがそうですか? どうやって入るんですか?
山門をくぐるしかないんだろうよ。 江口の車でギリギリいっぱい。ツアーバスはどうするんだ。 こうして緊張感たっぷりの道を通り、ようやく到着した本日最後の札所でございます。 本堂はこの上のようです。まあ我々は若いんだし、歩きましょうか。登り口には「これより333段」ですと。観音寺市の琴弾八幡宮(381段)より少ないじゃん。金比羅(香川県琴平町)の1300段すらクリアしているわしらにたかが333段。そう思って昇り始めたわけですが。 ああ、普段の運動不足がくるなあ。 などと言ってられず。 確かに、段数は少ない。でも傾斜角が八幡さんとも、金比羅さんとも違うのだろう。登山だ。そう、バリアフリーの階段って段差の高さが少ない代わりに段数を増やしている、あんな感じだ。ちなみに9番札所は足の病気に霊験が。つまり9番で足を治さないとここに来てはイケナイということか。ふと横を見ると、併設してある舗装道路をマイクロバスが通り過ぎていった。ものすごいエンジン音を響かせて、急なカーブを曲がっていった。八幡さんの道じゃあんなエンジン音はしない。ちくしょう、あれはツアーのバスだな。乗り換えたか。 バスに遅れること数分。我々も到着。と、ツアーのおばちゃん達によく登ったねと声をかけられる。何度も一緒になってるから、もう顔も覚えられてるんだろうな。よく遍路していると途中で見知らぬ者同士が意気投合してどうのこうのってあるけど、そうだね、こんなに頻繁に顔を合わせりゃ、そりゃ一体感も生まれるよ。 へろへろになりながらも、御朱印はいただく。旅の仲間はベンチから動かなかった。
さて、降ります。降りるのはとても楽ちんです。ふと横を見ると、併設してある舗装道路をファミリーカーが通り過ぎていった。あのカーブを曲がれず往生していた。途中で例の自転車野宿兄ちゃんに出会う。彼もまた階段を上る人。頑張ってくれ。時間的にも、たぶんここが今日最後の札所だろう。
以上をもちまして、本日の旅は終了いたしました。
しかし、まだこれからおうちに帰らなければなりません。 ルートはこのまま県道12号線を西に向かって走り、国道32号に乗り換えて、琴平経由で帰ります。途中で無性にアイスクリームが食べたくなって、コンビニに寄る。先ほどの階段にやられて足が震えていた。大丈夫か、いい大人が二人揃って。
で、帰りルートに選んだこちら。 ‥‥こっち側から来た方が早かったんじゃないかなあ。3時間ぐらいで観音寺に着いた。そんなことを学習しながら、本日の旅。
この日の晩ごはんは作る気力も無いのでガストで済ませる。お茶請けを買って江口家に帰り、旅の仲間と本日の反省会を開くことになったが、その後の記憶がない。あのお茶請け、どこ行ったんだろう。
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